「 非認知能力 」をご存知ですか?
教育にとどまらず、心理学や経済学などの多領域にわたって、
研究が進められているキーワードの一つで、
「読み、書き」のような教科教育の成績や、
学歴、さらには経済的な自立、生涯の健康的な生活をも支えるものと考えられています。
例えば、何かに失敗をしたとき、
「自分だから失敗したんだ」と
受けとめるよりも、
「今回は上手くいかなかったけど、ここから学んでいこう」というほうが
失敗を乗り越えていく力があると言えそうですよね。
誤解を恐れずに言えば、
「非認知能力」とは「 生き抜く力 」とも言えるでしょう。
著書では、低所得家庭への教育という米国の社会問題を背景に
保育や教育の現場での様々な活動を解説しながら、
「非認知能力」を育むための効果的な方法とは何かが、まとめられています。
心理士としても、
この著書にはヒントが詰まっています。
そのヒントは、一言でいうなら
能力醸成の「環境づくり」。
例えば、
「学習習慣を身につける」ことを考えると、
目先の楽しみに飛びつきそうになる気持ちを抑えながら、地道に課題に取り組んでいく訳で、
どんなに好奇心をもって学びはじめたとしても、長いあいだ保っていくとなると、とても大変ですね。
そこで、
著者は「環境づくり」が大切だと説きます。
個人的にインパクトがあった「環境づくり」の実験を紹介します。
スタンフォード大学のジェフェリー・コーエンとジュリオ・ガルシアは
2006年、添削された作文を用いた実験において、生徒を2つの群に分けました。
一方には、中立的なメッセージの
「作文に対するフィードバックとして、コメントを書き込みました」と書いた付箋紙を、
もう一方の作文には
「作文にコメントを書き込んだのは、きみに大いに期待しているから、
そしてきみがそれに応えられると思ったからです」と高い期待を示す付箋紙をつけて、
作文を修正するか選択させました。
結果として、高い期待の付箋紙を受け取るかどうかで、大きな差が出たのは
差別的な背景から、
教師が添削することに「改善の手助けなのか、それとも偏見からか」との心配を持つ生徒でした。
その差は、中立的なメッセージで書き直した生徒は17%だったのに対し
高い期待のメッセージでは、72%にのぼった、ということです。
この結果から、
それまでの育ちにおいて
差別という「慢性的なストレス」にさらされ
安心した関係性を築く難しさがあっても、
たった1行の「もっとうまく書ける」という、信頼に基づいたメッセージによって
書き直す「 粘り強さ 」を引き出すことができたと言えそうです。
著者の言う「環境づくり」とは、
思いやりと期待をこめて「人間関係」を築いていき、
生徒にとって「価値があり、やりがいのある学習指導」に導くこと。
指導者によってつくられるこうした環境が、
非認知能力を引き出す、ということです。
こうした「環境づくり」は
私たち心理カウンセラーにも求められていると強く感じるところです。
クライエントが抱える問題意識に対しては、
こころを寄せて思いやりをもって労います。
ですが、問題だけに向き合えばいいのではありません。
問題意識を抱えながらも、
ここまで生き抜いてきたクライエントには強みがあり、
そして解決の力があるとの信頼をもちつづける。
こうした信頼に裏づけされた姿勢で、クライエントとの関係を築いていく。
その上で、ここからどのようにしていったらいいか、
クライエントの力を生かせるように模索していく。
例え恵まれない生い立ちにあったとしても、
これからはクライエントが自分らしさを発揮してくために。
お手伝いをしたいのです。
そしてそれが著者の言う「環境づくり」と重なってきます。
この著書には
「環境づくり」のためのヒントが
他にもたくさん散りばめられています。
例えば、
「非認知能力」のためには、乳児期の子どもと親との「結びつきを育む」ことが、
いわゆる「知育」のような知的な関わりよりも、有用であること。
また、子どもの問題行動を抑え、
望ましい行動を伸ばすには
ご褒美と厳しい罰則、
つまり一方的な「アメとムチ」では、効果がないこと、といった指摘など。
そして「非認知能力」の、児童期から成人に至る連続的な影響についても
興味深いデータがあります。
様々な知見に触れられる、という意味でもお勧めの一冊です。
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